
グスタフ・マーラー(1860-1911) :
交響曲第1番ニ長調、花の章
チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
指揮 : デイヴィッド・ジンマン
国内盤 : RCA BVCC-37471
(発売 : BMGジャパン)
70歳の誕生日を間近に控えた(*注1)名匠デイヴィッド・ジンマンが、満を持して取り掛かったマーラーの交響曲全曲チクルスの第1弾「交響曲第1番ニ長調(巨人)」がリリースされました。解説書によれば、トーンハレ菅との演奏会、およびそれと並行して進められる録音は番号順に行なわれ、2009/10年のシーズンで(第10番を含めた)全集が完結する予定であり、現在は第3番までが録音済みとのことです(*注2)。
さて、以下に感想を書きます(なおこのディスクはSACDハイブリッド仕様ですが、当方はSACDプレーヤーを所有していないので、CD層での試聴です)。・・・ここまで「聴いて幸せな気分になれる」第1番のディスクはそうそうないと思われます。
チューリヒ・トーンハレ管の、ふくよかで暖かみがあり、かつしなやか、それでいて明瞭な発音を伴った音色が素晴らしい。いかなる場面でも力を入れて叫ぶようなことはありません(終楽章のトランペットの最高音においてすら余裕が感じられるのは驚きです)。強いて言えば第2楽章冒頭の低弦の出だしにやや力みが・・・という感じはありますが、それは「重箱の隅をつつく」ようなものでしょう。「音の出しはじめと出し終わり、およびひとつの音から次の音への移り方がうまい。切り口がささくれ立ったりするようなことがない」ということも、自分で楽器を弾く者として強く感じました。アンサンブルも良好。高度でありながら「きっちり合わせている」ことを聴き手に意識させない自然さがあります。
ジンマンの指揮は各楽器間の音量、音色のバランスを、曲のいかなる場面においても実に巧みに、かつ自然にコントロールすることに成功しています。彼はマーラーの演奏においては作曲者の音響上の意図を忠実に再現するべく、楽器の空間的配置に格別の考慮を払うそうですが(この録音においても第2ヴァイオリンの対向配置、2組のティンパニの両翼配置が実践されています)、この録音の、あらゆるパートが過不足なく聞こえ、立体感をも感じさせるような音響バランスを可能にした最大の要因は何よりもジンマンの「良い耳」であろうとぼくは思います。
演奏は始めから終わりまで、一貫した節度を保った自然な抑揚を伴って進行します。我を忘れて突進したり、周りの光景に眼を塞ぎ自分だけの感情に沈潜したり、という様相を見せる箇所はほぼ皆無です。例えて言えば、とてもよい声を持った吟遊詩人が歌い奏でる一篇のメルヘンを聴くような感じでしょうか。マーラーの交響曲に常に何らかの「切実さ」を求めるような方にはいささかこの演奏は微温的に響くかもしれませんが、この曲そのものが持つ性格から判断すればジンマンの演奏には充分に説得力があり、必要にして充分なだけの「雄弁さ」も兼ね備えているように思います。
併録された「花の章」も、上記のようなジンマン/チューリヒ・トーンハレ菅の音楽的美質が十全に発揮された好演となっており、ややもすればただ退屈な演奏になりがちなこの音楽を、色彩感に富んだ一幅の音画として提示することに成功しています。
*注1 ジンマンは1936年7月の生まれ、一方この「交響曲第1番」の録音は2006年2月です。
*注2 ブックレットには「2006年10月に『第4番』の演奏が行なわれる」と記載されているので、もしかすると「第4番」も録音済みかもしれません。



ジンマンのマーラー、よさそうですね。もともと語り口のうまい指揮者だと思うので、期待です。私は昨年スヴェトラーノフの全集を買ってしまったので、当分マーラーは買わないでおくつもりですが、好きな7番なんかが出たら、我慢できないかも。