2006年01月30日

「チェロの貴公子 ピエール・フルニエ」 (DG)

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「チェロの貴公子 ピエール・フルニエ」
(Pierre Fournier - Aristocrat of the Cello)

輸入盤 : 独 Deutsche Grammophon
      00289 477 5939 (6枚組)

フランスの名チェリスト、ピエール・フルニエのドイツ・グラモフォンへの録音を
集めた6枚組のボックス・セットです。過去に未発売の録音はチャイコフスキーの
小品"Pezzo capriccioso"のみですが、オリジナルのマスターテープから制作したと
いう点がウリになっています。収録曲一覧はこちら(ボックスの裏面です)。

年明けからひととおり、何度か繰り返して聴いていました。やっぱりフルニエの
チェロは「かっこいい」。収録された曲目の中から最高水準のものを選べと
言われれば、やはりベルリン・フィルをバックに演奏したドヴォルザークとエルガーの
協奏曲になるでしょう(CD3)。他の録音と比較しても格段に集中力が高く、また
フルニエの音色に備わる独特の気品、風格、および格調の高さが、曲そのものが持つ
美しさと渾然一体となった名演であると思います。

その次によいと思ったのが、順不同で、CD4に収録されたブラームスの2曲のソナタ、
CD6の小品集(つい先日国内盤でも再発されました。限定ですが・・・)、そして
シューマンの3曲の小品です(CD5に2曲、CD6に1曲)。

ブラームスのソナタでは、出だしから「あ、フルニエの音だ」と思うくらいに、
ブラームスの音楽よりもフルニエの音楽的個性のほうをより強く感じます。つまり
上のドヴォルザークやエルガーほどには「曲の美質と演奏者のそれが一体となった」
という印象はありません。しかしフルニエがブラームスの音楽の特質を大事にし、
それを損ねないようにしながらみずからの芸風を存分に発揮していることは、
一聴すれば直ちに気づくことができるように思います。「ブラームスを聴く」
というより「フルニエを聴く」要素の強い演奏ではありますが、聴き逃すことの
できない演奏であることは確かだと思います。

小品集はフルニエの「技」が凝縮された一枚。こういう技巧的小品を弾くと、
フルニエは実に上手い。しかも上に書いた彼の特質、すなわち「格調の高さ・
気品」は技巧的な難曲においても一貫して保たれており、それがこの小品集の
独自の存在価値になっているように思います。技巧だけならこの録音でのフルニエより
達者な現代のチェリストはおそらく何人もいるでしょう。しかしフルニエのような
「芸格の高さ」を感じさせてくれるチェリストはどれほどいるでしょうか。

シューマンの3曲の小品を聴くと、もしかするとフルニエがもっとも得意にしたのは
シューマンではないだろうか、などと考えてしまいます。というのは、もともと
卓越した表現力を持っているフルニエですが、これらのシューマンの小品においては、
他の曲に見られる以上に融通無碍な、音色・音量・タッチ・テンポのコントロールが
見られ、それらがすべて音楽の生命力・躍動感を引き出す効果をあげているからです
(そういえば以前紹介したこのDVDに収録された協奏曲も非常にすぐれた演奏でした)。

一方で、「あれ?」と少し首を傾げたものもあります。これも順不同で挙げれば、
ハイドンの協奏曲第1番、シューベルトのアルペジオーネ・ソナタ、およびショパンの
ソナタです。

ハイドンでは、フルニエには珍しく、演奏に硬さが見られます。持ち直すところも
あるのですが、全体としてどこか肩に力の入ったような、彼にしては流れの良くない
演奏になってしまっているように思います。

シューベルトでは、歌いだしはデリケートではありますが、彼にしてはやや音色の
伸びやかさと深みに欠けます。少なくとも第1楽章に関しては、思い入れたっぷりで
力強さも感じられるトルトゥリエの演奏のほうをより評価したい気持ちです(ちなみに
フルニエは提示部を反復していないのに対して、トルトゥリエは反復を行っています。
これを「曲への思い入れの違い」と解釈するのは行き過ぎでしょうか)。しかし・・・
ここが困るところなのですが、2楽章から3楽章にかけてはフルニエのほうが
好ましいように思えるのです。第3楽章の穏やかな長調のメロディーを、フルニエは
中庸の節度を保ち、崩れることのない技巧を保ちながら弾き切っていますが、
トルトゥリエのほうでは、冒頭楽章から思い入れたっぷりに弾き続けてきた結果、
第3楽章では、言い方は悪いのですがやや「ガス欠」を起こしているような感が
あるからです。破綻しているわけではないのですが、音楽の流れにはあまり
そぐわないテンポの揺れや細かい部分での多少の音の震えが見られます。

ショパンでは、これはもしかすると曲のほうにも原因があるかもしれませんが、
やや音楽の運びがルーチンになっていて、音色やタッチの変化にもやや乏しく、
生き生きとした生命力のある音楽の流れを生み出すまでには至っていないように
思います。もしかするとフルニエというチェリストは、曲によって得意・不得意が
はっきり分かれるタイプの演奏家なのかな・・・とも思います。もちろんほとんどの
演奏では一定水準以上のレベルには達しており、それを前提にしての・・・という
話ではありますが。

あと少し付け足すところとしては・・・CD1のバロックの協奏曲集について。
演奏はフルニエのソロも伴奏のオーケストラも完全に旧式のスタイルで、最近の
演奏を聴きなれた耳にはやや古めかしく聞こえます。そしてオーケストラの
演奏水準は、正直言ってさほど高度だと思えるほどのものではありません。・・・
ですがフルニエのチェロだけは、やや時代を感じさせる演奏スタイルながら、
とてつもなく「立派」であります。ちょっと全体的な評価には困る演奏では
ありますが、フルニエの音を聴く、という一点に目的を絞れば、確実に一聴の
価値はある演奏であると思います。

最後にちょっとばかり私事を。大学を卒業して帰省してから、2年ちょっと前に
再びチェロを手に取るようになるまでは、正直言ってチェロのソロアルバムを
聴く気があまり起きませんでした。チェロを完全にやめてしまいたいとは
思わない、けれどもまた弾き始めるきっかけもつかめない・・・こうした状況の
中でチェロのソロが入った曲を聴いたりすると、「どうして弾いてくれないのか」
と自分のチェロから責められているような気がして・・・いや、これはあまりにも
個人的な話ですね。もうこのへんにしときます。

(2006.02.06追記)・・・とまあ、全体としてはわりと満足できるボックスセットだと思って
いたのですが、ちょっと検索をしてみると・・・DGにはまだこんなイイ録音があるじゃ
ないですか! なんでこれを入れないかなあ・・・この録音の存在を知ってしまっては、
ボックスセットの評価もだいぶ低下してしまいますな。

しっかりして下さいよ、ユニバーサルさん・・・。

(さらに追記)・・・と書いたけど、まだあった。現にボックスに収録されたものより
重要そうなものもたくさんあるような・・・調べれば調べるほど中途半端なボックスだと
いうことが分かってしまいます。輸入盤で生きていることを期待して、注文を出して
みます。まったくもう・・・。
posted by とりぷる at 23:59| Comment(0) | TrackBack(1) | ディスク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Tracked: 2008-02-16 05:45
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